見えない、聞こえないレッスン

 今までのレッスンで一番印象に残ったのは、F君(仮称)とのレッスンでした。


なぜ印象に残ったかと言うと、語学のレッスンにも関わらず、レッスンではほとんど沈黙だったからです。話せないから沈黙だったのではなく、日によって話したくない日があるようでした。


 レッスンはスカイプを通してでしたが、F君がビデオをオンにするのはまれで、ほとんどは音声だけでした。前述したように話したくない日には「こんにちは」と話しかけても何も返事が返ってこず、なにも見えない、聞こえない状態の相手に向かって私は一人で話しかけました。そしてぽつりぽつりと返事が返ってくることもあれば、何もなく最後の10分だけ教科書を読むこともありました。

そうかと思えば、レッスンの初めから大きな声で支離滅裂に話し始めたり、歌を歌いだすこともありました。

 話はまともにできないものの、習得の速さはすばらしく、教科書の文をすらすらと読むことができました。

 また、一つのことに執着するようで、時には車のビデオ、時にはアメリカ同時多発テロのビデオを

レッスン中流し続けることがありました。会話らしい会話ではなく、「すごいですね」「こわいですね」と繰り返すだけでした。

 歌もよく歌っていて、アメリカのティーン向けの番組で歌うこともあると言っていました。本当なのかはわかりませんが・・。


 彼の両親と直接話すこともなく、何の情報もないままただレッスンのリクエストをもらっていたので、彼が自閉症なのかどうかも定かではなかったのですが、あきらかに障害をもっているようでした。

 ほぼ毎日、1年近くレッスンがありました。

ある日、彼のレッスンは急に終わりました。私は感情移入をしすぎたというようなメッセージをもらいました。

もしかしたらそうかもしれません。彼の障害がよくなればと思って頑張りすぎたのかもしれません。

大人になるのを非常に不安に思っていた彼。あれからどうしているでしょう・・。 



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