自己啓発

 日本でも自己啓発本が人気ですが、特にアメリカの人は自分を変えることに熱心な人が多いような気がします。日本では努力、積み重ねと言うような考えか多いような気がしますが、アメリカではひらめきというか、なにか斬新な方法を試すという感じではないでしょうか。


 Hさんもその一人で、日本語学習に関しても常によりよい方法を模索し、試していました。最初のレッスンでHさんは、私に自分が日課としている勉強法について話してくれました。内容ははっきりと覚えていませんが、たしかフラッシュカードで語彙を覚えたり、外国人向けにかかれた日本語のニュース記事をひとつ読むとかか何かだったと思います。それと一緒に、日本語の短いビデオをみ、私とのSkype通した会話のレッスンで会話力をのばすという計画です。読む、聞く、話すの全てをとりいれた素晴らしい計画です。


 それでもHさんはなかなか効果に満足できません。毎回、「毎日ね、朝散歩してるときとか思う事を、な~んて日本語いうのかな~って思うんだよね。ふつーのことがまだまだ言えない。」と流ちょうな日本語で愚痴をこぼします。「あのね、LIfehacker みたいな、こういうのを日本語でよめるようになりたいんですよ」とLifehacker 日本語版のリンクを送ってくれました。


 Lifehackerは、まさにHさんのような、IT企業で仕事をこなし、自分を高めようとする人のマガジンです。使われている用語は流行りの言葉もあり、造語もあり、たしかに、日本語を流暢にはなすHさんでも難しい内容です。おそらく普通に日本語学習者用の教科書で勉強しても学べない言葉が多いでしょう。時間がかかってもどんどん読んで語彙力を増やすしかありません。


 そうはいっても仕事も忙しくレッスンすらも会社の昼休みを利用してオフィスからするくらいのHさん。さらに自己啓発のためにいろいろな本を読んだり、セミナーに行ったり、ジムにもいったり、大忙しです。そしてもちろん新しい方法をつぎからつぎへと試みていました。黒く引き締まったはだにいつもおしゃれなシャツを着こなして、いかにも「意識が高い人」と言う感じです。


「先生、最近はね、アイデアスケッチを始めましたよ。思い浮かんだこといろいろ浮かんだことを絵にかいていくの。そのために、ほら、ボードも買いました。」

またある時は、「いい読解のサイトをみつけましたよ。」「いいビデオ見つけましたよ!」さらに、「あのね、私ね、ちょっとしたなぞなぞっていうのかな。で昨日、面白い本をみつけてね。」


 そんなある日、Hさんは、上司に「いや~あのね、先生。変わろうと思ってることがダメって言われましたよ。」と言いました。しばらくの間、意味がわかりませんでしたが、その上司が言うことは、変わろうとか、何かルールを作ることがだめだそうです。抽象的な話題なうえに、Hさんの日本語がすこしわかりにくかったので、もしかしたら違う意味かもしれませんが、なんとなく、その上司が言いたいことがわかる気がします。

Hさんは「まだまだだね~」といいつつも、なにか納得してない様子でした。


そうこうしているうちに一年がたち、12月に入ったころ、Hさんが「次のレッスンは一年の反省と来年の目標のアドバイスが欲しい」と言いました。Hさんらしい!と私は妙に感心し、簡単に反省点とアドバイスを箇条書きにしてまとめました。

「ありがとうございます先生!じゃ、これで来年もがんばりますよ」


その翌年から、Hさんからのレッスンリクエストがぱったりと途絶えました。てっきり冬の休暇でどかに行っていて、またそのうち戻ってくるんだろうと思っていた私は、ようやく「ああ、私とのレッスンもHさんのあらたな方法の一つであってもう違う方法をはじめているんだなと気づきました。


今、これを書いているのは1月。いまごろHさんはまた新たな目標をたてそれに向かって新たな方法を試みているのでしょう。そんなHさんのことを想像するとなぜか微笑んでしまいます。目標を達成することより、常に何かそんなことを考えてるのが楽しいんだろうなあと思うのです。なんて言ったら、Hさんに「違うよ、先生」と言われるかもしれませんが・・。




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